統計・法律から読み解く日本社会

経済・法律の視点から、家計や労働など日々の生活に関する事柄について分析・提言するブログです

サービス残業はなぜなくらないのか~残業代が払われない理由~

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前回は残業時間の上限規制の行方について記載しました。

日本の正規労働者は国際的にみてまだまだ労働時間が長いことが知れられています。一日の労働時間は基本的に一日8時間ということになっていますので、通常の労働時間と合わせて残業時間が長くなっている現状があります。

たとえたくさん残業しても、残業代がフルに支払われていれば、そこまで多くの不満はでないでしょう。しかしながら、多くの会社で残業時間に見合った割増賃金(残業代)が支払われていません。

残業代の支払い

残業代は支払わなければいけないものか?

そもそも会社にとって残業代とは支払わなければならないものなのでしょうか?膾炙の経営が苦しければ、残業代を支払わないことも許されるのではないでしょうか。

残業代(割増賃金)の支払いに関して、労働基準法は以下のように定めています。

 

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない

 

労働基準法第37条では、使用者が労働者を残業させた場合、60時間までは賃金の25%以上、60時間以上であれば賃金の50%以上の残業代を支払わなければならないと定めています

支払わなければならないという文言をみると、残業代の支払いは使用者の義務とみなされる非常に強い規定となっていることがわかります。

多くの企業で残業代は支払われていない

残業代が支給されていない労働時間はどのくらいあるのでしょうか。

長時間労働の是正はいつ行われるのか~残業はどう変わるか?~

 

近頃、長時間労働が問題となり、長時間労働の是正策が政府で検討されています。ここでは、政府は労働法制をどのように変えようとしているのか解説します。

労働法制見直し

電通の高橋まつりさんの自殺などを発端に、長時間労働に関する問題について、労働法制の見直しに向けた世論が急速に高まっています。

労働時間に関して規定している法律は、労働基準法です。労働基準法は昭和22年(1947年)に制定されており、使用者と労働組合で協定を交わせばいくらでも残業できる、いわゆる「さぶろく協定」はこのときにできました。

当時は、戦時復興の中、国民みなで働き、日本経済を復興させなければなりませんでしたから、長時間労働は仕方がない面もあったかもしれません。しかしながら、現代の社会には、制定当初からあるこれらの規定は明らかに実態にそぐわなくなっています。

戦後の労働時間の在り方が変わる、今、労働者の働き方が大きく変わろうとしています。

現在の労働時間の規制

現在、労働基準法上、労働者の労働時間はどのように定められているのかをみてみます。

労働時間に関する規制(労基法32条

 そもそも労働時間に関する大原則は労基法32条に規定されています。

 

(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 

このように労働基準法上は、原則週40時間を超えた労働を禁止させているわけです。

 

例外規定(労基法第36条)

しかしながら、この特例として、労働基準法第36条、いわゆる「さぶろく協定」と言われる条項が規定されています。

 

(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらずその協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

このように、使用者と労働組合が書面で協定をかわし、届け出れば、いくらでも労働させることができることになっています。この規定によって第32条の規制が有名無実化しているわけです。

どう変わるのか?

労働基準法改正の目玉は、残業時間の上限規制の導入です。現在、協定を結ぶことで青天井になっている労働時間に上限規制を導入できれば、労働基準法制定以来の、画期的な大改正になる可能性があります。

問題としては、①残業時間の上限が何時間となるのかということや、②定期用除外となる職種がどのような職種となるのか、などがあります。前者に関しては、現在政府は残業時間月60時間をめどに考えているようで、繁忙期には100時間までの残業時間を認める方針のようです。後者に関しては、研究者やディーラーなど専門職が外されることが見込まれています。

残業規制はいつ導入されるのか?~民進党の歩み寄りが重要~

 

今後のスケジュールは、早くて2017年秋の臨時国会で法案を提出し、成立させたいと考えているようです。臨時国会が厳しければ、2018年1月から始まる通常国会となるでしょう。その場合、予算関連法案ではなさそうなので、4~6月頃の成立となるかもしれません。

民進党など野党は残業時間の上限規制とともに導入される脱時間給制度へ反対するという名目で、与党と対決方針をとっています野党である民進党は連合が支持基盤であり、本来、労働者の味方である政党なんですから、労働者の利益を考えて成立に向けて尽力をしてほしいですね。

子育て世帯の支出と収入~30代・40代にかけて貯蓄し、50代で赤字になるのが平均的家計に~

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子育てをしていると教育費など多くの支出がかさみます。日本の子育て世帯のみなさんはどのような内容の支出をどの程度行っているのでしょうか

今回は、総務省「全戸国消費実態調査」をもとに、4人家族(子どもが2人)の世帯について、夫の年齢別(世帯主年齢)にどのような項目にどの程度の費用をかけているか分析してみます。

 

子どもが2人の世帯(4人家族)の支出額

 子どもが2人の世帯(4人家族)の支出額をみると、下記のようになります。

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4人家族だと、30代で月28万円、40代で月32万円、50代で月40万円程度出費しています。家庭の収入も年功序列で徐々に上昇するとはいえ、多くの家庭で子供が高校生以上になる50代での支出の増加がかなり大きいですね。

ちなみに、世帯主年齢階級別の収入は以下のようになります。

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支出との差額は預貯金や住宅ローンなどが含まれます。若年世帯は収入に比して支出が少なくなっています。30代では収入の方が6.5万円高く、40代では8.2万円高くなっています。住宅ローンも平均で4万円程度かかっていますから、そのすべてが貯蓄となるわけではありませんが、40代では世帯の平均で4万円程度貯蓄に回していると思われます

一方、50代をみると、2.1万円しか差がありません。これは住宅ローンを差っ引けばほぼ赤字会計になります。このため、30代や40代でお金をためつつ、子どもが大学生くらいになる50代に入ったときに貯蓄を切り崩すという生活パターンが平均的な家計像となりそうです。

40代後半から50代前半にかけての支出が急増する時期までに貯蓄を増やしておかないと子供の教育費が賄えなくなる可能性がありそうです。

 

どこにお金がかかっているのか

父親の年齢が30代、40代、50代と上がるにつれて、支出項目別に世帯の支出がどのように変化していくのか見ていきましょう。

まずは30代から

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30代の支出はまだ子供が未就学児であったり小さいことや、そもそも稼ぎが少ないことから、全体的に支出が少なめです

項目として大きいのは食料や交通通信費です。世帯の年収がそこまでたかくないことから、エンゲル係数が大きくなることがうかがえます。また、交通通信費の高さは意外かもしれませんが、おそらく通信費が高いのだと思われます。

夫婦ともにスマートフォンをもっていればそれだけで2万円近く料金がかかってきますし、自宅のネット環境を整備するとそれ以外にも基本料が毎月かかります。テレビでNHKをみたり有料番組を見たりするとさらにアドオンでかかります。現代においてネット環境がないというのは考えられないので、通信費はどの世帯でもこの程度はかかってくるのでしょう。現在、総務省が携帯料金を引き下げるよう勧告していますが、この数値をみると、やはり政府としても対応が必要であることが示唆されます。

 

続いて40代をみます。

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30代のころと大きく変わりませんが、食費が増えているほか、教育費もやや増加します

40代になれば長子が中学生や高校生になっている世帯が多いでしょうから、塾代とか、場合によっては私立に入れたりすれば教育費が大幅に上昇します。しかしながら、30代でそこまで大きな上昇がみられないことを踏まえると、特に中学ではまだ私立に通う子どもは多数派ではないことや、近年政府が導入している授業料無償化などの効果が表れているものともみれますね。

ちなみに住居費は若干下がっています。これは持ち家世帯が増えるからでしょう。総務省の家計関係の調査は持ち家だと住居費が0になるので(住宅ローンは住居費に入っていない)、賃貸で借りている少数派の人の賃貸料が計上されるという形になりますので、平均の住居費が減少してしまいます。

 

50代は支出が大きく増加します。

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増加が顕著なのはやはり教育費です。50代にもなれば、子どもは専門学校生や大学生、大学院生になっている世帯が多数だと思います。ただ、ここでは4人世帯を前提としているので、子どもが独立した場合は統計から脱落してしまうので、50代前半で子どもが大学生くらいの世帯や、50代前半や後半で比較的高齢で出産した方が混ざっている感じなんだと思います。

教育費は8万円弱かかります。大学生になれば、よほど優秀でない限り私立大学や私立専門学校に通うことになりますから、やはり出費は大きく増えてしまいます。年功序列で給与が急速に増える方は別として、支出のピークに向けてしっかりと貯蓄しておく必要がありますね。

また、そのほかの消費支出が増えています。これは諸雑費や仕送りなどですが、こどもの小遣いなどがかかるのでしょう。

 

まとめ

 いかがでしたでしょうか。上記の平均支出を参考に、ご自身の支出のどこが大きくてどこが小さいのか、分析していただければと思います。

豊洲など湾岸エリアのマンション価格はどうなるか?ーマンション価格が暴落する必然性はないー

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豊洲エリアにおいてマンションが林立しており、将来マンション価格がどう変動するかが注目されています。

いくつかの媒体にはオリンピック後に価格が急落するという観測もある中、価格の見通しはどうなるのでしょうか?。今回は、近年の動向をまず確認してみましょう。

 

豊洲のマンション価格の現状

過去、分譲された大型マンションの価格推移をみることで、豊洲のマンション価格の動向を探ります。

 

1.アーバンドックパークシティ豊洲

 ―石川島播磨重工業(現・IHI)造船所の跡地約50haで実施された大規模な再開発の一環で、晴海運河に面した7街区アーバンドックの住宅施設であり、同街区の商業施設ららぽーと豊洲とは地下で連絡している。
 

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■価格推移(水色:平米当たりの該当物件の相場、黒実践:東京都の相場、黒点線:江東区の相場)

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2.ザ豊洲タワー

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■価格推移(水色:平米当たりの該当物件の相場、黒実践:東京都の相場、黒点線:江東区の相場)

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3.シティタワーズ豊洲ザツイン

豊洲2・3丁目再開発の一環で建設された。9-2街区のS棟とN棟の2棟からなる『ザ・ツイン』と、江東区豊洲北小学校を挟んで北側に離れたの8-4街区の『ザ・シンボル』という、合計3棟の超高層マンションによって構成されている。総戸数は『ザ・ツイン』が1,063戸(ザ・ツイン)、『ザ・シンボル』が全850戸で、日本では戸数が第3位の大規模マンション

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■価格推移(水色:平米当たりの該当物件の相場、黒実践:東京都の相場、黒点線:江東区の相場)

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豊洲マンションの価格の動向

これらをみると、リーマンショック後の最近5年間はやはり値段が上がっていることがわかります。

当然、中古物件であるため、経年劣化による資産価値の劣化も同時並行で進行しており、最近5年間の価格推移は極めて良好であったといえるでしょう。

 

価格が暴落する根拠はあるか?

一方、豊洲など湾岸エリアのマンション価格が暴落するという話しは尽きません。代表的な理由としては、

①過去、価格が上がりすぎた。そのため、近いうちに価格は低下する

②子育て世帯など若い世帯がたくさん住んでいるおり、将来は多摩ニュータウンのように高齢者ばかりになる

③日本の人口はこれから減少するため、需要が減少し価格は低下を続ける

というようなものがあるでしょう。

しかし、これらの懸念が現実となる可能性はいずれもそう高くないと思われます。

 

1.過去、価格が上がりすぎた。そのため、近いうちに価格は低下する

そもそも湾岸エリアの住宅価格の決定メカニズムはそのほかの地域のそれとは大きく異なっています。

通常の地域であれば、供給する土地に限りがありますから、既存の住宅の統廃合などによって新しい住宅が供給されます。このため、価格の大きな変動があったとすれば、それは一過性のものでいずれは長期的な水準に調整するでしょう。

ただし、湾岸エリアは違います。もともとは空地やあっても倉庫などばかりだった土地が開発され、空地に住宅が作られ、土地の性質が大きく変化しています。このような地域の住宅価格の高騰は、短期的な変動というようりも、魅力的な土地に生まれ変わることによる長期的な価格のトレンドの上昇という側面が強いでしょう。(ただし、トレンドとしての上昇以上に高騰している可能性があるため、そこは注意深く観察する必要があります)

 

2.子育て世帯など若い世帯がたくさん住んでいるおり、将来は多摩ニュータウンのように高齢者ばかりになる。

これも、やや苦しい理屈づけでしょう。多摩ニュータウンなど過去1970年代~1980年代頃に大量供給された住宅は郊外が中心です。これらの町は、人口が急激に増加する中で、政府が住宅供給を拡大する必要性に迫られたことから、大量に住宅が供給される過程で生まれています。

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一方、湾岸エリアは、タワーマンションからみる絶景、銀座など都心に徒歩を含めて10数分程度でのアクセス、といった優位性があります。都心へのアクセスは特に若者や若年夫婦が求めるサービスであるため、よっぽどのことがない限り、郊外の都市のように若者の流入が途絶え、寂れる可能性はないでしょう。

ただ、豊洲など湾岸エリアの現在の人口構成がいびつであることは事実だと思います。子供の数は近々ピークで高年齢者の人口シェアが増加していくでしょうから、保育園や小学校のつくりすぎなど一時的な人口の偏りがもたらす悪影響には留意する必要があります。

 

3.日本の人口はこれから減少し始めるため、需要が減少し価格は低下を続ける

湾岸エリアに限らず、住宅価格が暴落するという理由に真っ先に挙げられるのが、人口減少です。

ただし、人口減少もマクロでみれば正当性はありますが、各地域すべてに当てはまるかというとそうではありません

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上の図は東京都が予測している将来人口の推移ですが、御覧のとおり人口のピークは2025年と先であり、かつ今後50年くらいは減少ペースも非常に緩やかです。

地方での住宅価格低下はまぬかれないと思われますが、人口減少が要因となり都心の住宅価格が下がるかというとかなり怪しいとみておいた方がよいでしょう。

 

ほかにも、いくつか言われていることがありますが、湾岸エリアの価格が暴落するという根拠はそう信頼性が高いものではなく、湾岸エリアの価格が低下する必然性はないといえるでしょう。

 

実需で湾岸エリアのマンションを考えるのであれば「有り」

今後の湾岸エリアのマンションがどう変動するのかを決めるのは、結局のところ、需要と供給の関係なわけです。湾岸エリアのマンションの価格が下がるというのは、変えない人の嫉妬であるとか、希望的観測が入り混じった感情的な側面が強く、住宅が供給される以上にたくさんの人が湾岸エリアのマンションをほしいと思ってくれるかが重要です。

豊洲などはもう空地はほとんどなく、供給できる土地は限られていますから、限られた新築マンションと多くの中古マンションが流通するという、ほかの地域と同一の市場に収斂していくでしょう。

そこでは、ほかの地域と同様にどれだけその地域が便利でブランドがあって、住みたいと思うかで住宅価格が決められていきます。港区のように、都心からのアクセスが良好で、多くの人が住みたいと思える街になれば、価格はさらに上昇するでしょうし、23区東部のようにブランドの構築に遅れ、所得が高い層があまり住みたいと思わないことで価格が低位で推移する可能性もあります。

もっとも、ここまで湾岸エリアの住宅価格暴落には根拠がないと言ってきましたが、私は短期的には住宅価格は調整される(低下する)と思います。現在は復興需要や東京五輪の需要による労務費の上昇や、円安による資材の高騰などから、住宅市場はやや過熱しているからです。

短期的には低下するリスクは比較的高いのではないかと思いますが、タワーマンションから見る眺望や都心へのアクセスは魅力的であり、それでも実需で湾岸エリアのマンション買うのであれば、それは十分「有り」だといえるのではないでしょうか。